« 勝新の笑い声が聞こえてくる | トップページ | オデュッセイア[20年目の帰宅] »

黄金製の癌細胞

201279
 動物と植物を含む生物のそれぞれの体内には、実に素晴らしい機能が一杯内蔵されていて、それを最大限に働かせてどの生物も日々を精一杯に生きている。そして、この素晴らしい彼ら彼女らの廻りには、眩いばかりの山と川と空が広がっている。
 一方、電子工学の粋を集めた工業用ロボットや、閉所探査ロボットや、食事の給仕ロボット、清掃ロボットや、介護ロボット、はたまた愛玩用のペットロボットなど、ある意味では人間の技量を遥かに超えた働きをするさまざまなタイプのロボットが氾濫している。これらは、超小型コンピュータでも内蔵されているのか、人間の5感に匹敵するさまざまなセンサーにより滑らかな動きが創生され、目的である己の役目を正確に、かつ迅速に果たしているようだ。
 しかし、今でも理解できないでいるのだが、2011311日に襲った大地震で脆くも崩れ去った第一原発の事故処理の際に、日本がこれほどのロボット技術を持っていながら、アメリカやフランスの原子炉内の探査ロボットに頼らざるをいなかったのは、どうしてなのだろう。そこまでは、想定外だったとでもいうのだろうか。恥ずかしく思うのなら、何かで帳尻を合わせもらいたいものだ。災害時に何の役にも立たないのは、逃げ腰だけが目だつ政府と経産省と東電だけでたくさんだ。

 パソコンを仕事に活用して、人間の能力の何十倍の案件をこなしている事実は、現代社会の中でただ一人の機械音痴でも充分に認識できることだ。だがそれは同時に、人間の犯すミスの1兆倍ほどの誤りを瞬間に造り出す機械でもある。それだからこそ、人間本来の生きかたとしては自分自身の身体を活用して周囲の諸問題を解決していく方法が、多少説得力に難点はあるが一番だと思うのである。
 常日頃から便利な自動車に頼りすぎて足腰の退化の著しさに恐怖感を感じて、トンデモナイ早朝に起床して町中を毎日2時間以上も早足で徘徊する人が大勢いるが、健康維持のためには歩かなければならないという使命感からだろう。
 おそらく今後は、並足散歩では効果が薄いと早足走行の風潮は年々強まり、ある一組の夫婦が本格的ランニング・シューズを買い込み全速力で走り始めれば、連鎖は雲を呼び、路地路地からハチマキ姿の人々が湧き出してくることになるだろう。

 ついぞ、身体のためになることなどしたこともない人でも、ガタガタになった我が身を引き摺って病院にたどり着き、担当医に対して自然に尊敬を込めた視線を送れるようになってから初めて、本当の意味での身体の仕組みを知らされることになる。そして誰もが、「人体というものは、まったく巧くできていものだ」とメモまでとって、つくずく感嘆するのだ。
 人体の在庫エネルギーが少なくなれば空腹になり、食物を口に運べば林檎を噛み切る歯と、南京豆を摺り潰す歯がそこにあり、口を動かせば自動的に消化を助ける唾液が必要分滲み出てくる。この一連の作業を飽きさせないための装置なのか、食物本来の風味を味わう装置が口腔と喉の入り口付近に設置されている。消化器官を通って栄養の殆どが体内に摂りいれられたあと、分解されやすく加工されたものを排出する行為もまた、ある種の達成感に由来する爽快感を味わはせてくれるという、旺盛なサービス精神まで備えられているのだ。確かに、平時には言うことなど何もない五体満足がそこにあったのだ。
 「食事の時間までどのくらいか」と時計の針を読み取るすべを知っている抜群の記憶力は、脳の仕事だ。心臓はガタが来ているといわれながらもまだ身体中に血液を送り続けている。それより、肝臓の働きには驚ろかされる。たかがレバーの塊だと思っていた肝臓には、主に5つもの重要な仕事が受け持たされている。本当に、二日酔いしか生み出さない飲酒のために、使い物にならないまで酷使するのにはモッタイナイ器官なのである。
 いままで嫌々ながらでも肝臓が分担していた仕事をそつなくこなすのには、西部工業団地の調整池北側にある一番大きな工場ぐらいに設備が必要なのだと聞いたことがある。
 福島第一原発の爆発に伴う燃料棒の冷却水のための、大げさな濾過装置を見てみるが良い。あれだけの頭脳集団が集まっているのに「接続ホースが抜けて水漏れした」などと大騒ぎをしている。こんなことが体内で起きてみろ。瞬く間に腹水が充満し、自転車の空気入れのような注射器で抜き取らなければならなくなる。
 それにしても、東京電力本社において何度社長と会長が代わっても、詐欺師まがいの油断のならない顔つき人ばかりだ。そろそろこの企業の歴代役員のことごとくの刑事責任を立証して、10年程度の福島第一原発4号機立屋内に幽閉すべき時はきている。以前から気づいていたのだが、この企業を含む日本中の電力会社の全役員が、ずっと以前から極めて濃厚な核物質に汚染されていたのだ。「値上げをするだと!」馬鹿も、時々は休んでからいってください。

 話しに多少の落差はありますが、人間の循環器系は、心臓の力で血液を送り出して身体の各部分の約60兆個の細胞に酸素と栄養素を供給し、不要になった二酸化炭素や老廃物を除去する働きをする器官の総称である。
 この血液を運ぶ道路である血管は、まず、身体の各部分へ通ずるメーンストリートとして動脈があり、身体の隅々にまで満遍なく広がる60兆個の細胞に通ずる市町村道に該当する毛細血管がある。そして、身体の隅々で燃焼した酸素と栄養素の燃え殻である二酸化炭素と老廃物を運びだすために、毛細管に隣接している細静脈と、少し寄り道をして心臓に戻る静脈とがある。
 新しい血液を絶えず製造補給しているのが、脊髄、肝臓、脾臓などである。静脈で運ばれてきた血液から二酸化炭素を回収して体外に排出することと、体外から酸素を取り込んで血液に乗せてやる仕事をしている肺臓が主体となる呼吸器官。
 身体に発生する老廃物の排出方法は、消化器系のルートを通り体外に排出されるものと、血液や筋肉内に蓄積された老廃物を尿酸として排出するルートと、老廃物や余分の塩分などを汗として排出する三つの方法に大別することができる。
 食物を口腔で咀嚼して咽喉の下の食道に送り込み、胃で撹拌しペースト状にして十二指腸に送る。この十二指腸の消化の仕組みは、まず、食物を分解するほどの強力な酸性の胃酸を中和する膵臓からの膵液が注がれることで、十二指腸内壁が胃酸で融けるのを防いでいる。もう一つは、肝臓の仕事の一部の胆汁を生産して胆嚢におくり、そこで濃縮貯蔵された胆汁を必要に応じて十二指腸におくり消化を助け、ここから栄養素の吸収が始まる。
 十二指腸で胆嚢から送り込まれた胆汁で脂肪分が乳化され、また膵臓からの膵液と、十二指腸内壁から分泌される酸素の働きにより三大栄養素(蛋白質、脂質、炭水化物)の細かい分子に分解される。小腸(厳密には空腸と回腸に分けられる)に至った消化された食物の90%は小腸粘膜から吸収され門脈を通って肝臓に送られる。この肝臓の働きにより、栄養分を貯蔵しやすい形に作り変えて肝静脈を通して心臓に送りこむ。
 一方、小腸内で栄養分を吸収した残りは大腸に運ばれ、それに含まれている残りの栄養素と水分を級収し、残された残骸を便として排出するのが消化器系の全ルートである。
 肝臓の働きの一つに尿素の生産がある。筋肉細胞中に含まれる老廃物(アンモニア等)は肝臓に送り込まれ尿素に分解され、腎臓に送り込まれる。
 腎臓の働きの一つに、血液中にある身体に必要なものと不必要なものを選り分ける働きがある。つまり、腎臓には絶えず血液が流れ込んでいて、尿を濾過して取り除くことで血液の浄化を図る機能なので、血液循環には不可欠の器官である。腎機能が低下すると、血液中に残っていなければならない蛋白質が尿と一緒に出てくることもある。蛋白質が流れ出るほど腎機能が低下していれば、これとセットになっている糖が出てこないはずはない。こんな時には、自分から率先して糖尿科に顔をだすべきである。そして野心溢れる若手の医師の深刻そうな顔に拝して、今後の段取についての説明をしてもらうべきだ。多少、ギャンブルの様相はあるが、軽い薬品の処方で直れば、お腹の皮下にインスリンの注入をしなければならない習慣にまでは至らずに済むかも知れない。
 血液が腎臓で濾過されてすくい上げられたものが尿で、それは尿管を通り膀胱に貯められる。
 腎臓から膀胱へは1時間当たり60mlの尿が送り込まれ、膀胱総容積(成人で500ml)の80%程度蓄積されると大脳に信号が送られ、我々は尿意としてそれを感じて「チョット」などといい訳がかった言葉を発してトイレに向かうわけである。排尿時は腹圧を加えると膀胱筋肉の働きで内圧がかかり、膀胱の排出口にあたる膀胱頚部筋が開放され尿道を通って排尿される。尿を蓄積する容器にあたる膀胱の排尿直後の肉厚は1.5Cmぐらいだが、満タン近くなると3mmまで薄くなる。このとき物理的衝撃(転落事故、自動車事故)が加わると破裂することがある。

 それぞれの人間が、我が事のように自慢する頑強な自身の各器官であっても、時として病魔は偲び足で近づいてくる。身体のどこかに不調を感じたのなら、まず大きな病院へ行くがいい。消毒薬の香りがほのかに匂う総合病院の待合室に座っている全部の人が病人なのである。それを確認するだけでも、病気の半分は治ったも同然である。待合室に漲(ミナギ)っている消毒薬のこの香りは、そこに並ぶ患者全員の力強い連帯意識の源ではあるが、間違っても「どこが悪いんですか?」などと訊ねてはならない。なかには待ってましたとばかり、胸をはだけて心筋梗塞発症時のバイパス手術の傷跡を見せないとも限らないからだ。とにかく、その話しは長くなる。
 人それぞれが持つバライティーに富む病魔の中で一番手強いのが癌細胞である。彼らは、60兆個もの細胞が犇く生命体のどの器官のどの細胞にも、いとも簡単に侵入して正常な器官を破壊してしまうのだ。
 ヒトの細胞は1個の受精卵から出発して、それが元気な鬨の声(トキノコエ)をはりあげて誕生するまでには約3兆個になっている。そして鼻の下にうっすら髭らしきものが見えはじめる中学生ぐらいになると、もう大人と同じ総ての機能を持ち、教科によっては学力の面でも親父を追い越しているからか、身体総細胞数は親父と同じ約60兆個にもなっている。少年もこの頃になると腕相撲をやっても親父に勝ってしまい、親父をして「こんなつまらないことは、もうやらない・・・」などと呟き、その場から離れてゴルフのクラブの手入れなどを始めるのだ。奥様の視線を避けている彼は、顔にこそださないが相当に傷ついている。

 [細胞分裂]とは、1つの細胞が2個以上の娘細胞(ジョウサイボウ)になる現象をいう。単細胞生物の場合の細胞分裂は個体そのものが2体となるが、ヒトのような多細胞生物での細胞分裂は細胞を増やすことで個体を成型することになる。また60兆個になる前にも後にも細胞分裂は休むことなく続けられ、常時死滅する一定数の細胞を補充している。生物は細胞分裂があるから生命の連続性が保たれ、そして、この分裂には念のために厳密な制御構造も備わっている。

 [染色体]は遺伝情報を担う生体物質で、塩基性の色素で簡単に染色できることからこのように呼ばれる。
 これは非常に長いDNA分子がヒストン(染色体を構成する蛋白質の一群で、分子量比でDNAと同量ある)などの蛋白質に巻き付きながら折り畳まれた構造体で、真核生物(細胞核のないバクテリア類以外の動物、植物、菌類、原生生物をいう)の場合には核内に保持されている。
 細胞1個に入っているDNA60億塩基対ぐらいだといわれ、ヒトの細胞は2倍体ゲノム(生物体を構成する細胞の含まれる染色体の総数)当たりでは約30億塩基対である。
 1個の細胞の中に60億塩基対あるDNA(デオキシリボ核酸)は人体の細胞の設計図的意味合いを持つが、これが46本の染色体の中に保管されている。そして染色体は1本の紐のようなもので、46本つなげると全長2mにもなる。
 人体はだいたい60兆個の細胞で出来ているので、身体全体のDNAを合わせると1200Kmに達し、地球と太陽の距離のおよそ800倍にもなる。この距離を夏の日の太陽を見ながら想像すると、眼が眩むほどのとてつもない距離だと実感させられる。次からは、肉眼で直接太陽を観ないようにしようと反省しているところだ。
 われわれの身体の約60兆個の細胞のうち1%程が1ケ月間に死滅しているので、同じ数の細胞が必要になり、その数だけ細胞分裂をして補充される。このことは、補充された細胞の中のDNAは太陽までの距離の8倍の距離を新たに複製していることになる。

 [遺伝子]は、生物細胞内おいて形質を発現し、その形質を子孫に伝える機能をもつものの名称で、この遺伝子は上記のDNAという材質でできているといいる。これを、もっともっとわかり難くいうと、DNAは現実の化学物質であり、遺伝子は遺伝学における抽象観念である。
 ヒトのDNA型は充分に個性があり、終生不変である。したがって、DNAで個人を特定できるので、事件現場に残された血痕や髪の毛の付け根に付着した毛根部分のDNAを鑑定して犯人を割りだす方法がある。もっとも指紋や顔写真や血液型と異なりDNAの個人サンプル数は限られているので、容疑者を絞り込みその者からDNAのサンプルを採取して現場に残されたものと照合するしかないので、非常に手数がかかる。近未来にはDNA国民総登録制時代が来るだろうが、指定暴力団体や新興宗教団体や中国マフィアや、大阪市職員や日教組などが、長期に渡って反対デモを展開することが予想される。

 生物も長生きする間には細胞分裂における複製ミスが蓄積され、癌細胞に発展するものがある。細菌のDNA[輪ゴム]のようにエンドレスで端がないが、正常な細胞のDNA2つの端がある[ひも状]で、細胞分裂してもDNA両端の部分が分裂しないために完全な複製ができない。これでは分裂のたびにDNAが短くなっていくため、50回ぐらい分裂すると分裂が不可能になる。
 有性生殖に必用な卵や精子を生みだす[減数分裂]は、DNNが輪ゴム状では正しい分裂が出来ない。前記のように、性を持つ生物のDNAはひも状だから、細胞分裂の回数に限界が出てくる。動物に[寿命]があるのはそのためである。
 細菌のDNAは端のないエンドレスなのでテロメア(DNAの末端部分)の短縮が起こらない。一般的な細胞と異なり、癌細胞は複製で短くなったテロメアを伸ばすことができるため、無限に分裂するので寿命がない。つまり、いつまでも無限に生き続けるわけである。

 [癌細胞]には、個々の癌により表現形質は異なるが、いくつかの共通した特性がある。
自律増殖→癌細胞は宿主のホメオスタシス(恒常性)から悦脱して、無限に増殖を続ける。
(イ)正常な細胞を癌ウイルスで処理すると、細胞は一定の時間経過を経て、形態の変化を含む形質転換を起こし、無限増殖を始める。このような細胞をトランスフォーム細胞といい、動物に腫瘍を作ることができる[造腫瘍性]を持つ。
(ロ)正常細胞の増殖には、足場依存性があるが、癌細胞には足場を必要としない。したがって、軟寒天(海草から得られるゼリー状のもので、羊羹などの原料)中に浮遊状態で増殖できる。つまり、彼らに栄養さい与えれば、フラスコの中でもラーメンどんぶりの中でも永久培養が可能なのである。
(ハ)正常細胞の増殖には血清添加が必用だが、癌細胞は血清に対する依存度が低下していて、無血清培地でも増殖できるものもある。このような癌細胞では、血清中の増殖促進因子に相当する物質(トランスフォーミング増殖因子)が産生されている。
(ニ)正常細胞の増殖には接触阻止があるが、癌細胞には接触阻止がなく、あたかも3代に渡り相続が繰り返されたスズメ蜂の巣のように何層にも重なり合って増殖を続ける。
高い解糖能→癌細胞に見られる代謝上の特徴の一つに高い解糖能がる。
 正常細胞では、好条件下で解糖は抑えられるが、癌細胞では好条件下でも高い解糖能をしめす。
 癌細胞の増殖速度と解糖能の高さとよく相関するので、癌細胞は自らのエネルギー獲得をこの解糖能に依存している。
 癌細胞が高い解糖能をしめすのは、解糖系の律速酵素が正常細胞の酵素とは別のアイソザイム(別の化学構造を持つ酵素)に変換されることに基づく。
増殖因子やプロテアーゼなどの分泌→癌細胞からは、様々な物質が分泌されている。ある癌細胞は、プロテアーゼ(コラゲナーゼ等)を分泌するが、これらは、癌細胞の浸潤や移転の形成に有利に働くものと考えられている。
免疫監視機構からの逃避→生体は異物の侵入に対してこれを排除する免疫機構を備え、癌細胞に対してもこの機構が働く。しかし、癌細胞はもともと宿主由来であるため、その抗原性は宿主と類似しており、宿主側から見て、癌細胞を異物として認識し難い。さらに、これに癌細胞の抗原性が容易に変化すると、また、多くの癌患者では免疫機能が低下していることなどの要因も加わり、癌細胞は宿主の免疫監視機構から逃れ、居間でテレビを観ながら菓子を食べるがごとく、悠々と増殖を続ける。

 日本人の死亡原因のトップは[悪性新生物]と表記される[]によるもので、癌罹患数約64万人の内336千人となる。死亡原因の2位以下は、心疾患(心筋梗塞に類する心臓病)、脳血管疾患(脳梗塞や、くも膜下出血)、肺炎(外気呼吸により空中に浮遊する細菌等に絶えず晒されているため、体調により発症)、不慮の死(事故や災害による「死に切れない思い」の死にかた)、老衰(間際になり延命処置をしなければ最も幸せな死にかた)、自殺(最も極悪非道な犯罪)などとなっている。
 この死亡率1位の[]を部位によって分類すると[肺癌]が一番で、[胃癌][大腸癌][肝臓癌][前立腺癌][膵臓癌][食道癌][胆嚢癌][悪性リンパ腫][白血病]となり、次にその他の癌という種別となる。この、[その他の癌]のなかに含まれる膀胱癌というものでさえ、病院内外において何らかの医療を継続的に受けている者が152万人もいるのである。
 どのような計算式で出したのか不明だが、癌は加齢により発症リスクは増してゆき、生涯的なリスクとなると日本人の2人に1人(男54%、女41%)が癌になる勘定となる。

 私たちの祖先は、20億年前(このころ真核生物が発生した)に、性による[かけがいのさ=多様性]と引き換えに[限りある命]を選択した。そして、進化の過程で創造した[死の仕組]が、DNAのコピーミスで壊れしまった細胞が[癌細胞]なのである。言い換えれば、癌細胞は[祖先返り]の果てに、寿命を失った[不死細胞]である。
 癌とは、死にたくないと願っている人間の身体に、本当に死なない細胞が増殖を始めたことで、天寿よりもずっと早く死を迎えることになる病気なのである。
 癌細胞が増殖して全身に転移しても、血を吐くわけでも血管が切れるわけでもない。だが、癌が進行すると必ず起こる現象がある。[患者が痩せる]ことである。癌で死ぬ理由を簡単に表現すると、体外から摂取した栄養素と健康な細胞内に残されているエネルギーまでも癌細胞に貪り喰われて[栄養失調]に墜ちえるためである。水も肥料も供給されなければ、動物も植物も枯れ落ちてしまうより方法がない。
 癌研究に使われる[Hela(ヒーラ)細胞]は、Henrietta Lacks(ヘンリエッタ・ラックス)というアメリカの黒人女性の子宮頸癌から採取した細胞を培養したもので、[Hela(ヒーラ)細胞]という細胞名も1951年に31歳で亡くなった彼女の名に由来する。彼女の癌細胞は、本来正常な臓器を養うための栄養を[横どり]して増殖を続け、彼女は痩せ細った末に死亡した。だが、61年前に彼女を死に至らしめた[Hela(ヒーラ)細胞]は、世界中の癌の研究室で今も生き続けている。
 普通なら彼女の死と共倒れになるはずの[Hela(ヒーラ)細胞]は、彼女の体内から取り出され[不死]のまま、実験室の中で栄養を補給され続けている。人間が求め続けた[不老不死]は、癌細胞という形で実現されている。

 科学の力でいつかは癌を克服して、近い将来の平均寿命が120歳を越えるかもしれない。
 それが必ずしも、宇宙の創造主が望んでいることかどうかは別として・・・。
    (中川恵一著[がんの練習帳]から)

|

« 勝新の笑い声が聞こえてくる | トップページ | オデュッセイア[20年目の帰宅] »

心と体」カテゴリの記事

自然」カテゴリの記事

動物」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 黄金製の癌細胞:

« 勝新の笑い声が聞こえてくる | トップページ | オデュッセイア[20年目の帰宅] »